表9 火山ガスに含まれる各ガスの濃度と毒性 17 これらのガスのうちHCl、SO 、H Sは特に強い毒性を持つ。またCO の毒性 については不明な点が多いが、高濃度になると酸欠状態になり死亡事故も発生している。 SO (二酸化硫黄)は、無色で強い刺激臭があり、呼吸器の粘膜に直接作用し呼吸 困難をもたらす。また、健康な人に比べ呼吸器に疾患を持つ人(喘息など)は、少量の 濃度(0.2ppm )でも発作を起こすことがあると言われている。SO は非常に水に溶 けやすいので、濡れティッシュなどで鼻や口を覆うだけでも有効である。 S(硫化水素)は無色で、温泉地帯や火口の近くで多くの人が嗅いだ覚えがある だろう卵の腐ったような悪臭がする。しかし、H Sは呼吸中枢を麻痺させる非常に毒 性の強い神経性のガスで、高濃度(150 200ppm)になると嗅覚が麻痺して悪臭を感じ なくなるので注意が必要である。対処法としては、SO 程ではないが水に溶けやすい 性質であるため、濡れタオルなどで鼻や口を覆うとある程度有効であると言われている。 HCl(塩化水素)は無色な腐食性のガスで刺激臭を伴い、眼、皮膚、気道に対して 炎症を起こさせ、高濃度のガスを吸引すると肺水腫を起こすことがある。高濃度のガス を吸引した場合は急いで医師にかかる必要があるが、眼や皮膚に対する応急処置として は多量の水で洗い流すことが知られている。 4-2.火山ガスの噴出量と濃度 現在三宅島では、地震活動や地殻変動は沈静化の方向にあるが、火山ガスの放出は依 然活発で、1日に約1~4万トン ** のSO が放出され続けている。三宅島が噴火する 以前の日本全国のSO 放出量は年間約100 万トンで、その大部分は桜島から放出されて 24 ガス成分/濃度  フッ化水素 HF)  塩化水素  HCl)  二酸化硫黄  SO2)  硫化水素  H2S)  二酸化炭素 ** CO2)  一酸化炭素  CO)  1ppm 10ppm 100ppm 1,000ppm 3 許容  濃度  1 臭い  検知  0.06 臭い  検知  1 ~ 5 不快臭  10 許容  濃度  5,000 許容  濃度  50 許容  濃度  600700 1時間  頭痛・耳鳴  嘔吐  1,500 1時間  生命危険  1020 頭痛  70~  死亡  3040 頭痛  めまい  嘔吐  意識障害  5060 失神  昏睡  呼吸障害  5%  呼吸間隔  短縮  10%  1015分  昏睡  40%  死亡  眼鼻  灼熱性  疼痛  3060分  生命危険  中枢麻痺  即死  200 ~ 400 ~ 700 ~  血中一酸化炭素ヘモグロビン濃度() 0.31 臭い  検知  20 目刺激  咳  3040 呼吸  困難  50100 1時間  耐える  400500 生命危険  5 2)  許容濃度  上気道刺激  5 許容  濃度  10 粘膜  刺激  1,000以上  数分間致命的  50 2時間  250 1時間  600 30分  * :モルモットに対する吸入致死濃度。  **:CO2 濃度9%で5分間、10%で1分間で死亡した例がある。1015%では数呼吸で昏睡状態になるともいわれている。  許容濃度は日本産業衛生学会の基準による、SO2 2ppmは米国産業衛生専門家会議による基準  ppm:百万分の一の割合を指す。空気1m 3 中に、ある物質が1cm 3 含まれる場合、1ppmの濃度となる。 ** 1~4万トン:観測により求めたSOの体積に、SOの分子量を乗じて求めた重さ。