10 図 11 を見ると、東京 23 区内で斜面危険箇所は、北区、台東区、千代田区、港区、大 田区に集中している。これは、京浜東北線の西側沿いに見られる急崖に相当し、台地東 縁に形成された崖部に該当する。しかし、都心区部での斜面危険箇所は、これらの台地 端の崖を宅地造成、道路・鉄道建設のために、さらに人工改変した箇所が多く、人工斜 面(=切土、盛土、構造物の設置等人工の手が加わっている斜面)の方が自然斜面(= 自然の力により形成された斜面)より多い。 この他、地形と関係すると思われる危険箇所の特徴的分布は、台地が河川により浸食 され形成された川沿いの崖に危険箇所が分布しているが、概して下流部分(台地東側) に集中している。これは河川上流部では、浸食による削り込みが少なく、河川標高と削 り残された台地上面標高との比高差が少ないためと考えられる。 2-2 斜面災害と地質の関係 斜面災害の発生は、一般的に斜面の地形、地質構造、風化土の厚さ、植生などに制 約される他、降雨量や地震動の強さに直接影響される。また地質との関係も大きく、特 に地すべりは、粘土含有量の高い第 だいさんきそう 三紀層(氷河期以前の 6500 万年~ 160 万年前に作 られた地層)地帯と古期堆積岩類の破砕帯及び温泉変質帯を持つ火山などで多発してい る。このような特定の地質が分布する箇所に、地すべりが発生しやすい理由は、その強 度の低さおよび風化のしやすさにある。 細粒岩(泥 でいがん 岩等)は粗粒岩(礫 れきがん 岩等)に比べ強度が小さいことが多く、新鮮岩より風 化岩(地表付近にさらされた岩が、物理的〈差別膨脹や凍結融解 及び化学的〈酸化や 加水分解 な風化作用により脆くなった岩)の方が強度が小さく、このような強度的に 弱い箇所を活動面として地すべり等が発生することが多い。しかし、地すべりの発生は 地質だけではなく、地質構造(受け盤・流れ盤)や地下水等と密接な関係を持っている。 危険箇所が多数存在する奥多摩地区の地質は、主に秩 ちちぶたい 父帯と四 しまんとたい 万十帯と呼ばれる中生 代の古い地層から成り、概ね地層面が北東へ急角度で傾いている。中生代とは、今から 約2億 4500 万年~ 6500 万年前の約2億年間の期間を指し、恐竜が栄えた時代で、現 在の奥多摩を形成している地層は、その頃、数千mの深さの海底に堆積した砂や泥やプ ランクトンの死骸などから出来ている。これらの堆積物を載せたプレート(海洋プレー ト)と呼ばれる岩盤は、太平洋中央部の中 ちゅうおうかいれい 央海嶺と呼ばれる海底に連なる山脈部分で地 底から湧き出し、東西に分かれて年間数 cm ずつ移動して、日本海溝付近で日本列島や アジア大陸を載せたプレート(大陸プレート)の下に潜り込んでいる。この潜り込む際、 プレート上部の堆積物が引き剥がされ、皺を押し集めるように固められたものを付 ふかたい 加帯 と言い、奥多摩はこの付加帯により形作られている。奥多摩の地質を調べると、北西- 南東方向を軸として縞状に地層が重なり、多摩地域北部(秩父帯)より南部(四万十帯)