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2.下町の文化
2-1 下町の言葉
(1)江戸言葉(下町言葉)の起源
江戸・東京で使われている言葉には、山の手の『山の手言葉』と下町の『江戸言葉(下
町言葉、または江戸弁)』があり、これらは東京方言として位置づけられている。
東京方言は、江戸時代の江戸の発展に伴い、当時の中央語であった上方語や徳川氏ゆ
かりの三河弁などの西日本方言が土着の西関東方言と多く混合して成立したとされて
いる。江戸は、参勤交代や商売などで全国各地から人々が集まったことから、上方語や
三河弁以外にも各地の様々な方言の影響を受けた。また、当時の江戸は、世界でも屈指
の人口を誇った巨大都市であることから、町人や武家など階層別に様々な言葉使いの違
いが生まれ、武家が居住する山の手では武家言葉、町人が居住する下町では江戸言葉(下
町言葉)が使われるようになった。
江戸言葉(下町言葉)は、東京(旧江戸の範囲)の東側、下町で使われる日本語の方
言で、時代劇や江戸落語などでよく聴かれる江戸っ子の言葉である。元は、江戸時代に
おける町人(庶民)の言葉であった。
(2)江戸言葉(下町言葉)の特徴
一口に江戸言葉(下町言葉)と言ってもさまざまで、地域によって、あるいは生活風
習や職業、階層によって細かく言い回しやニュアンスが微妙に異なる。例えば日本橋と
深川や浅草とでは、ずいぶん言葉づかいやイントネーションが違っている。おそらく、
コミュニティとしての言葉づかいに加え、江戸時代からつづく地域の職業的な傾向も色
濃く影響していたと思われる。江戸言葉(下町言葉)の特徴は、「べらんめい調」と言
われるように、その発音や語彙(ごい)は周辺の山の手言葉や西関東方言とは多少異な
る。特に、「し」と「ひ」の混合が見られ、話し言葉のこうした特徴は東京出身者の年
配者を中心に存在する。
・し、しゃ、しゅ、しょとひ、ひゃ、ひゅ、ひょの発音の混同
例:東 ⇒しがし、人 ⇒しと、質屋 ⇒ひちや、潮干狩り ⇒ひおしがり
コーヒー ⇒コーシー、飛行機 ⇒しこうき
・母音の転訛(てんか)、脱落など
例:江戸っ子 ⇒えでっけ、手拭 ⇒てのごい、だいこん ⇒でいこん
また、下町と山の手ではアクセントの異なる言葉があり、その事例を以下に示す。
山の手のアクセント 下町のアクセント
・坂(さか 尾高型)←→(さか 頭高型)
・次(つぎ 尾高型)←→(つぎ 頭高型)
・鮨(すし 尾高型)←→(すし 頭高型)