4 ・坂東(んどう 頭高型)←→(ばんどう 平板型) ・朝日(さひ 頭高型)←→(あひ 中高型) ・卵(たご 中高型)←→(たまご 平板型) 庶民・職人では「べらんめい調」が盛んに用いられたのに対し、商人では商売柄、丁 寧さに欠けるとしてあまり用いられなかった。 下町言葉は、江戸の職人の言葉を引き継ぐもので、いわゆる落語のような語り口から なる。落語は、江戸の職人ことばを基本に語られているのでよく似ている。その下町言 葉の一つに「ちょいと」がある。「ちょっとお待ちください」を「ちょいとお待ちくだ さい」、「ちょっとそこまで」を「ちょいとそこまで」というような言い方があり、「ち ょっと」→「ちょいと」と言うように、“い”に変わるだけでテンポが出て威勢が良く なる。この“い”に変わるのは下町言葉の特徴のひとつである。また、「それから」を「そ いから」、「おまえさん」を「おまいさん」と言う表現もある。二つ目の下町言葉に「な んてったら」がある。「なんと言ったらいいんだろう」を「なんてったらいいんだろう」 と短く表現する。他にも「いやなこった」を「やなこった」、「違いない」を「ちげーねー」、 「大概にしやがれ」を「てーげーにしやーあれ」と言葉が短くなる。このように下町言 葉には、音が飛んだり、つながったり、詰まったり、ということがよくあるが、方言で しか伝わらない微妙な機微というものが存在する。つまり、下町言葉は、テンポがよく、 聞きやすく、歯切れ美しく、自然の勢いのあるのが特徴である。また、このあたりの表 現が下町言葉のいいところと思われる。 (3)標準語の広まりと江戸言葉(下町言葉)の衰退 江戸言葉(下町言葉)と対する山の手言葉は、明治維新以降、東京の山の手で使われ てきた方言で、西関東方言を基盤に上方言葉(主に京言葉)などが混合してできた江戸 の中上流階級の言葉を基に、明治時代にできあがった。日本語の標準語は、明治政府の もと中流階層の山の手言葉を母体として制定され、教科書に取り入れられて全国に広ま っていった。 そのような中、江戸っ子は、東京の町や文化に強い誇りと愛着を持ち、関東大震災・ 東京大空襲等の大災害に伴って郊外へ多数の移住者を出しながらも、江戸言葉(下町言葉) の特徴は比較的最近まで保たれてきた。ところが、下町と山の手の曖昧化、大災害によ る旧来住民の減少と戦後高度経済成長期からの地方出身者の流入などにより、東京方言 の江戸言葉はもちろん、標準語の母体となった山の手言葉も消滅の危機に瀕している。 表1は、下町、浅草北部の職人衆20人(明治生まれ4人、大正生まれ5人、昭和生 まれ11人)に、主要語について普段よく使うか、余り使わないかを基準に尋ねたデー タである。これによると、明治、大正、昭和の年代順に使用率が低下していることがわ かる。また、図4は、地元出身のサラリーマン10人と職人20人とで使用の様子を比較