36 7.おわりに 今回の技術ノートでは「東京の超高層建物の支持層と基礎形式」と題して、超高層建物 について主に技術的側面から執筆させていただきました。 東京の超高層建物の支持層や基礎形式についてみてみると支持層としては東京層の砂層 と礫層および上総層群から選ばれていること、超高層建物の多くが支持層が比較的浅層に 得られやすい地域に集中していること、基礎形式としては直接基礎もしくは直接基礎と杭 基礎の併用が多く採用されていることがわかります。 技術的には超高層ビルと長周期地震動との関係が注目されています。規模の大きい地震 が発生すると周期の長いゆっくりとした大きな揺れ(長周期地震動)が生じ、これが建物 固有の揺れやすい周期(固有周期)と一致すると共振して建物が大きく揺れます。特に超 高層ビルの固有周期は長いため長周期の波と共振しやすく、共振すると長時間にわたり大 きく揺れ、かつ高層階はより大きく揺れます。2011年3月11日の東北地方大平洋地震では、 室内の家具などが転倒・移動したり、エレベーターが故障するなどの被害をもたらしまし た。長周期地震動の存在は以前から知られていましたが超高層ビルの出現により被害が顕 著になってきたことから注目されるようになりました。こうした揺れを抑制する技術とし て構造部分にダンパー(衝撃を弱めたり振動が伝わるのを止めたりするための装置)を設 置するなどの制振技術が開発されています。 東京の超高層建物は昭和43年(1968)に日本初の超高層建物でもある霞が関ビルディン グが竣工して以来ほぼ毎年のように建設され続けてきました。近年においても都心部での 大型再開発に伴う超高層建物の建設計画はめじろ押しで、さながら建設ラッシュの様相を 呈しています。世界ではサウジアラビアのジッタ・タワーなど高さ1000mを超えるような 超々高層建物(ハイパービルディング)が建設されようとしています。我が国においても 1990年前後に大手建設会社を中心に1000m超級の計画が相次いで提案されたほか、新宿副 都心や築地市場移転後の跡地にハイパービルディングを建設する構想もありました。これ らの計画はバブル崩壊後の長引く不況等で立ち消えとなりましたが、技術的には我が国に おいてもハイパービルディングの建設が実現可能であることを示しています。ただし我が 国では航空法の規制により高さ300mを超える建物を建てられる場所が限られているため、 高さ1000mに迫るような世界レベルの超高層建物の建設は実際には難しいようです。 超高層ビルには都市のランドマークとして賑わいを創出し都市を活性化させる効果があ りますが、一方で昨今では大量消費社会から持続可能な社会への転換が図られようとして おり、莫大なエネルギーを消費する超高層建物は効率性が疑問視されている面もあります。 しかしながら、旧約聖書にバベルの塔の伝説があるように人間には古来から高い建物に対 する憧れがあるように思われます。この憧れがある限り超高層建物の建設は今後も続くの ではないでしょうか。